杜街 diary

仙台・宮城・東北の街歩きと安全・安心に関する雑感

京アニ放火事件に思うこと:企業の火災対策は新たなレベルに

こんにちは。安全第一、杜街です。

とんでもない事件が発生しました。アニメや漫画には疎いのですが、世界中に起こる哀悼の意にニュースで触れるごとに、ここで仕事をされていた方々が日本を代表する作品を生み出してこられたことを感じます。遺族の皆さまや被害に遭われた方々には謹んでお見舞い申し上げます。

火災で30名を超える犠牲者が出たことに、安全を気にする者としては戦慄しかありません。なぜなら、大きな犠牲が出るたびに「このような不幸が二度と起きないように」と、建物の防火対策が強化され続けてきた歴史があるからです。

ja.wikipedia.org

Wikipedia によると、これだけの規模の犠牲者が出た火災は、新宿歌舞伎町の雑居ビル火災(2001年、死者44名)以来。その前だとホテルニュージャパン火災(1982年、死者32名)ですから、「二十年に一度」規模の火災が「放火」で起きてしまったわけです。

放火に限らず火災では「犠牲者を極小化する」ことが最優先になります。火災を発生させないことも大切ですが、発生してしまった後に延焼防止や避難誘導が迅速に行われることが、日ごろの備えとして重要です。

そして、大きな火災被害が発生するたびに「消防法」などの法令が改正され、ハード面・ソフト面の対策が充実してきました。ただ、今回の火災は、その想定をさらに超える事件となりました。

「ガソリン」という簡単に入手できる爆発物を使い、デスクワークを中心とした中規模の作業場を狙った。この2点が、今回の放火の大きな特徴だと思います。

ホテルなど宿泊施設、福祉施設や学校、不特定多数が出入りする劇場・デパート、一定規模以上のオフィスビルなどは、スプリンクラーの設置など厳しい防火対策が法律で求められます。おそらく今回の現場は、その基準に達しない規模・内容の建物だったようです。

www.nikkansports.com

mainichi.jp

私がテレビで現場の映像を見たときに真っ先に思ったのは「建物外部の非常階段と各階の非常口があれば、少なくとも3階の大多数が助かったのでは」ということでした。(その後、多量のガソリンによる爆燃効果を知り、「非常階段があっても・・・」という気持ちになっています。)現場の建物は屋外への出入口が玄関・玄関近くにある通用口・屋上への出口(屋上に避難できなかった原因も、これから解明されなければなりません。)の3ヶ所しか無かったようです。この状況で1階で火災(放火に限らず)が発生すると、まったく避難ができなくなります。制作業務で取り扱っていた可燃物の種類や量、日ごろの防火対策や避難訓練をどのようにさてれいたのか、気がかりです。

また、「ガソリン」による放火への対策は、喫緊の課題だと感じました。火災の犠牲者の死因は「一酸化炭素中毒」が多数であることは知っていましたが、「大量のガソリン・可燃物」と「鉄筋コンクリート構造のような気密性の高い建物」の組み合わせで、酸素が一気に消費され、黒煙と一酸化炭素が急速に発生し、より避難を困難にする。このことは、今回の事件からの教訓のひとつだと思います。ガソリンの入手が容易なので、今後の模倣犯も懸念されます。

www3.nhk.or.jp

こういった急速かつ消火困難な火災では、先ほどの話に戻りますが「迅速な避難」が有効な対策になります。非常階段・非常口誘導灯などによる「避難経路の設置」というハード面の対策と、「定期的な避難訓練」というソフト面の対策の、両方を日ごろから備えておく必要があります。特に「放火」への対策を考えると、「1階の玄関で火災が発生したときにどう避難するか」という想定もしておくべきです。これらは、法律による基準とは別に「従業員の命を守るため」に、すべての企業が努力すべき取り組みだと思います。

犠牲があまりに大きく、また犯行の理由があまりに理不尽です。いまはまだ「祈りの時間」で、事件を振り返る時期ではないかもしれません。ただ、同様の事件は今日にも繰り返される可能性があるわけで、現場検証などを踏まえた防止策の確立を、早急に警察・消防など関係機関へ期待したいです。

追記

その後のニュース報道で、この建物の防火対策について京都市消防局がコメントをしました。らせん階段の部分を含めた延焼・防煙対策がされていて、避難訓練も行われていました。消防局から表彰を受けたこともあったそうです。

www3.nhk.or.jp